Lara St. John ララ・セントジョン
http://www.larastjohn.com/
- カナダ出身のヴァイオリニスト。
- magnatuneで、ロックスピリットを感じさせるバッハのヴァイオリンコンチェルトを聴いて気に入った。ネットを検索してビジュアルを知ったのはその後のこと。
- 基本技巧派。恐ろしく正確で強いボーイングと自由自在にコントロールされた音色と音程。
演奏スタイルは独自の名人芸風、最近いよいよ磨きがかかってきている。
- 残念ながら日本での評価はイマイチなので来日講演は期待できないかもしれない。
- と思っていたが、2012年6月に東京に来ることに。仕事放り出して行くことはできず。
- ネット上でみつけたレビューによれば期待どおりのステージだったようで、こういうときには、田舎で暮らしは損だと思う。
- ララ自身のFaceBookでもごきげんな来日報告を書いていたし、じつに残念。
- 正統派ではない解釈で古典的権威など吹っ飛ばして心にダイレクトに入ってくる演奏スタイルは大好きだ。音楽はもっと楽しく、ヴァイオリンは自由なのだ。ヴァイオリンの名演奏は1930年~40年代の録音でほとんど充分、あとは録音技術とミスの無い正確さを競う、繰り返されるスタンダートがあるだけで、あえて買ってまで聴く気になれない。彼女は21世紀にクラシック音楽をやっている事の本質的な「無理」を越えて行く。商業レーベルでは出せないような演奏スタイルゆえか、現在では自身のAncalagon Recordsだけでリリースしている。
- デビュー以来、ララが最も得意としている作曲家がJ.S.Bach。
バッハというと音楽室の肖像画のイメージからか、偉大な音楽の権威というイメージができあがっているが、彼女のバッハは純粋に音楽的喜びに満ちている。しかしそれは末期ロマン派の表現主義的な主観的に崩した演奏とは一線を画している。
バッハだからパイプオルガンの様に演奏しなければならないなんて事は無い。「せっかくヴァイオリンで演奏するのだからこうやろうよ」という音造りになっている。
リズムと音のバランス、得に緩徐楽章での音程のとり方が絶妙。無伴奏が真骨頂ではあるが、ハープとのデュオでリリースしたソナタの美しさには驚いた。
- ララ・セントジョン以外に新録音を聴きたいヴァイオリニストはいない。*1
- あとは生演奏でしかヴァイオリン音楽は楽しめない気がする。それはまた別ジャンルの体験だから。
- ファンのひとりとして無視できない記事。
- ララ・セントジョンはカーティス音楽院で学んでいたころ、指導教授だったヤッシャ・ブロドスキーから執拗に性的嫌がらせを受けついにはレイプされたという。学院に訴えようとしたが、そんな事を訴えても誰も信じない、などと言われ、訴えをあきらめ自分を責め忘れようとした。指導者を変えてもしかし受けた傷は深く残り自殺を試みたことも。演奏家の道を歩むようになった後も折あるごとに学院への訴えをたびたび繰り返すも公には沈黙を強いられた。2017年ころからはじまった世界中の女性たちがが黙っていてはいけないと声を上げはじめた#MeToo?ムーブメントを経て、2019年に至りついに自分のつらい過去を公表。
- 幼いころから才能に恵まれ、ひたすらヴァイオリンの演奏だけに夢を抱き難関を突破して入った学校で、あこがれて師事した巨匠から14歳の少女の受けた苦しみは想像を絶する。*2
- クラシック音楽の世界でも、権威によってこういう事実が伏せられ*3、被害にあった女性たちは人知れず苦しみ続けてきたことは、ようやく多くの女性音楽家たちによって明らかにされてきた。自らトラウマ乗り越えて、世の女性たちに力を与える存在なろうと決意し行動している事に敬意を表する。音楽家としてララの将来がより明るく力強いものになることを願うばかり。
- https://www.inquirer.com/news/a/lara-st-john-sexual-abuse-jascha-brodsky-curtis-institute-philadelphia-20190725.html
音源紹介 review
すばらしい快速テンポ、はずむようなリズム感が最高
ダブルコンチェルトで共演しているのは兄のScott
無伴奏ソナタは一楽章を一息で演奏するような若い疾走感
ときどき昔の名人芸風の弓づかいでヴァイオリンをガィーとならしたりするので普通のバッハの演奏になじんでる人は嫌うかもしれない。
デビュー以来バッハ弾きだが、この全曲録音では以前より洗練された曲作りがすばらしい。通し演奏無編集というスタジオライヴ的な作品。
バッハのヴァイオリンとチェンバロのためのソタナから2曲とフルートソナタ2曲をベルリン・フィルの主席ハープ奏者、マリーピエール・ラングラメのハープ伴奏での録音。
コンチェルトや無伴奏で見せた激しく個性的な表現とひとあじ違って、深い音楽美を追求した名演。
バッハの演奏では常に課題になるモダンだビリオドだ等という次元を超えて現在という時代「ポストモダンビリオド」におけるバッハの音楽を表現しようとしている。ハープとヴァイオリンという組み合わせならではの、ダイナミズムとリリシズム。
- THE FOUR SEASONS PIAZZOLLA: THE FOUR SEASONS OF BUENOS AIRES
- ビバルディとピアソラ「四季」
Vivaldiは昔から聴きなれているイタリア人の演奏や最近のピリオド楽器の演奏と比べたら、ぶったまげること確実。20世紀初頭の名人芸風のソロ。本当に酔っ払ってるような、秋の一楽章。ララにかかるとこの曲も完全にヴァイオリンコンチェルトになる。
最近聴く機会が増えてきたPiazzollaの四季。Eduardo MarturetとSimon Bolivar Youth Orchestra Venezuela の演奏が実に爽快
magnatune版にはピアソラの四季は無い。
ビバルディ「四季
ララはロシアに留学していた頃にロマの音楽家と出会い大きく影響を受けたという、正確無比テクニックだけでではない演奏の"凄み"が聴ける
- Lara St. John & Polkastra
ここでのララは超絶テクニックのフィドラー
https://www.youtube.com/watch?v=P-mouRc5UnU
- Lara St. John: NPR Music Tiny Desk Concert
最新アルバムShiksaからのセレクト
Matt Herskowitzとのデュオは完璧なアンサンブル
このアルバムでララがヴァイオリンでやりたい事が際立ってきた。
ヴァイオリンは自由なのだ。
https://www.youtube.com/watch?v=NvHPuggkDpU
CDジャケットのアートワークは激しい表現だ。2017年に録音されていたものを2020年にリリースするまでの葛藤を感じる。
演奏はいかにもララらしく型破りだが説得力がある。ジャケットのような血なまぐさいものではなく、真摯に音楽に取り組み妥協を許さない表現。ピアノのHerskowitzとでなければ実現しなかった世界。
Beethoven’s Violin Sonata No. 9, “Kreutzer,” in A Major
この作品の成立の経緯がそもそも特異なもので、初演はかなり即興的な演奏だったという観点からの挑発的とも言える演奏。特に二楽章の変奏曲で繰り返しでは変奏の変奏になっている。特にピアノがはじけていてベートーヴェンがスタインウェイを弾いたらこんな演奏をしたのかという大展開。ヴァイオリンは基本的にスコア通りだがただの繰り返しではない。
César Franck’s Sonata in A major for Violin and Piano
フランクのソナタはかなり構成的に作り込まれた作品だから、そんなに音をいじるような事はしていない。
しかし表現はきわめて劇的で激しいので、没入的に聴くことができるか、入っていけないか。ここでもピアノの表現にふつうのクラシカルな演奏家にはできない色がある。その色が救いでもある。
全体として何かと闘ってるような激しい演奏なので体調を整えてから聴かないと、途中でついていけなくなる。
Fritz Kreisler’s Schön Rosmarin.
アンコールとして、思い切り自由にやってみた。メロディーは変えてないがリズムは自由、ピアノがスイングしている。この二人でクライスラー曲集やっても面白いかもしれない。
CDだとつい連続して聴くことになるが、ベートーヴェンのソナタのあとは30分くらいお茶でも飲んで休憩してから聴くことをおすすめする。
30分ではダメだ。できれば別の日に聴いたほうが良い。
音楽を聴くということは、時をその場に捧げること。約60分をLaraとMattと共に過ごす体験は、ライブならもっと違った印象になるのだろう。
- youtubeで公開されている音源。CDより聴きやすい印象。
- STRINGS "GOING TO EXTREMES Lara St. John emerges from a trying year with a new album of the Franck and ‘Kreutzer’ sonatasBy David Templeton