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*&date(Y-n-j[lL],2013/12/29);
やってみるものだ。
キコリになって以来、一度は斧で伐採やってみたいなどとよく話はしていたが、あまりに現実的ではないような気がして、やったことがなかった。
荒山林業の施業再開を山の神に報告する手作りの儀式として、「斧入れ式」という神事をその名前とともにおもいついたのは、今年の夏頃だったろうか、雪深い荒山山林の通称「のま」と呼ばれる杉林で、荒山雅行さんが生前に伐倒対象として選木してある杉を、ヨキと鋸で伐倒する。そんな情景を描いていたその日がようやく来た。
一周忌までは伐採はしない。荒山家と協議したわけではなく私が決めたことだったけれど、いずれ再開しなければならない荒山林業の再開までには最低でも一年は必要だと、関係する誰もが考えていたようだ。
荒山里利さんと具体的な相談に入ったのは、11月3日のメモリアルコンサートが終わってからだった。冬の新月期にやりたいということで、1月1日が新月だが最も近く関係者にとって参加しやすい12月29日に日取りは決まった。
私的な神事なので一般公開はせず、荒山家(荒山里利 雄大)荒山林業旧スタッフ(小林雅文、高橋康夫、香山由人)そしてただ一人生前の雅行さんを知らない、中島彩。(中島彩さんと荒山林業のかかわりについてどこかで書くと思うのでここでは細かい紹介はしない)
私的な神事なので一般公開はせず、荒山家(荒山里利 雄大)荒山林業弟子(小林雅文、高橋康夫、香山由人)そしてただ一人生前の雅行さんを知らない、中島彩。(中島彩さんと荒山林業のかかわりについてどこかで書くと思うのでここでは細かい紹介はしない)
ヨキは小林が数年前に大北林研グループでイタヤカエデを三ツ紐伐りで伐ったときに、小谷村のみなとやで買ったもの。鋸は私が岐阜県付知の道の駅に店を出している古道具屋で買ったもの。クサビは高橋が八坂の山師やまはちの父さんからもらったものと高橋の自作。いずれもこだわりの逸品だ。
鋸は前の晩に目立をして磨いておいた。思ったとおりの良い鋸だった。ただ鋸で太い木の追い切りをやったことが無かったので、尺六寸で足りるのかが不安だった。
9時荒山家に集合。大雪でも風が無ければ決行する覚悟だったが、穏やかな晴天に恵まれた。現場までは歩いて1時間弱。思ったほどの積雪ではなくかんじきは要らなかった。熊よけ鈴の音を響かせながら林道を歩く一行。画になると想像していた通り。私は隊列から抜けて前後に走りながらビデオ撮影をした。(私は入れず一行5人の画になってしまったのはちょっと残念だがここは映像を残しておきたかった)
「のま」のは沼の意、いつでも水の流れる湿地だ。杉の最適地とは言えないが、戦後に造林、間伐を繰り返し美しい杉林となっている。荒山雅行さんの生前最後の仕事場のひとつで、去年の12月には切り残してあった材を雪の中搬出した場所だ。最近まとまって凍裂が発生してしまい、荒山さんはそのうちでも残しておく価値の無いものを伐倒対象として選木してあった。施業の再開はこれしか無い。
10本余の黄色いテープを巻いてある杉のなかから、確実に倒しやすくしかも今伐るべき一本を選ぶ。3本の候補から選んだ1本はかかり木になる危険が最も少ないものでもあった。
根周りの雪を踏む。里利さんが小さな声で山の神の一員となった雅行さんの魂に呼びかける。お神酒を北山のハンノキでつくった皿に注ぎ、木の周りや道具に注ぐ。里利さんが選んだのは大雪渓の望山無濾過生。
ヨキを振るって交代で受け口を掘る。なれない作業で約20分。追い口切りは5分ほどだろうか。矢をカンブチで叩きこむうちに思いがけず早く木が傾き始めた。あたりが雪煙に覆われる中で杉は倒れた。
樹齢53年。木曽風に鳥総立てを行う。
静かな美しい伐倒だった。
今の林業の状況で、日常にこうした伐倒を行うことは現実的ではない。しかし特別な時の特別な伐倒には、このよな伐り方こそが相応しい。大変な手間とは言えこの木の生きてきた53年という歳月を思えば一瞬のこと、人間の力はたいしたものだ。
それよりも何故このようや伐倒をいままでやらなかったのだろうか。その精神構造に思いを馳せる。毎日やることではないが、ときどき、木を伐ることを生業とする者ならばやるべきことなのではないか。
課題は伐った木をどうするか。
枝払い造材も人力で、林道まで出すのも機械を使わないでできないか、馬搬とか。一仕事終えて荒山山林の南の入り口にある四季山荘で、豚汁と漬物の質素な昼食を囲んで参加した6人で語り合った。馬搬はちょっと手配が大変だが、人力でならちょっと頑張ればできない事ではない。
問題はどう使うかだ。枝打ちをしてあるとは言え凍裂の傷で変色もある、やや繊維の捻れがある、そもそもまだ若い、まさに間伐対象木なのだが、赤みの色はとても良いし、年輪も均一だ。
記念に何か造りたいと里利さん。私も鋸の鞘をつくりたいと思う。
梢まで使い尽くす智慧が必要だ。