ケヤキ

酸欠になりながらなんとか伐ったケヤキを、斜面から引き出した。

費用をかけたくなかったので、重機の移動の途中に立ち寄るということで、運送費をおさえることにしたので、伐採からしばらく日が経ってしまったのだ。

斜面を降ろすいわゆる下げ荷である、しかし重量1トンを超える大物は簡単には言うことをきいてくれない。結局問題は切り離した枝の処理のまずさだった。力ずくで引っ張るほどのパワーのあるウインチではないのだ。

まず最初に10センチほどの枝が地面とのあいだでクサビ状態になっているのに気づかずワイヤが切れてしまった。これはワイヤが痛んでいたのが原因。油圧ウインチは過剰な力をかけられないので、本来このワイヤを切断するほどの力はないのだから。

ワイヤ先端のフックが使えなくなった。すぐにワイヤを編み込みなおすことを考えたが、道具が足りない。近所の金物屋もまだ開いてない。そこで思い出した。ワイヤというのはヨリの力があるので、簡単に巻き付けるだけで、しっかりと結びつけられるのだった。架線の仮設ではよく使う方法だ。そうしてからまた引いてみる、こんどはこっちの枝が、つぎに向こうの枝が、次々にひっかかる。そんなこんなで30分ほどのつもりだったのに1時間半もかかってしまった。

最後に庭まで降ろしてみるとたしかにかなりデカイ。末口直径50cm長さ4mほど。だがあまりに木目が粗いし芯材が小さめ、つまり若い木なのだ。

木材市場にはできれば出したくない。この木が欲しいという人を捜した方が良い。本当はこの家の人に使ってもらうのがいちばんだと思う。60年もこの家を見守ってきた木だし、なんとか使うことを考えてくれればと思うのだが、結局製材費用はかかるし、そんなケヤキの一枚板が手に入っても、使うためにはさらに10年くらいは乾燥しなければならないし、いろいろ考えると実際問題として大変なのだ。

昔の人なら手間暇よりもそのものの価値を優先し、なんとか自分で使うことを考えたのだと思う。でもいまの生活のなかでこの木をどう生かすのか簡単でないことは私もわかる。

ここまで費用は約7万円かかっている。だから7万円以上で売らないとならないのだが・・・私には買えない。買っても置く場所がない。

やはりきこりだけではどうにもならない。伐った木に新たな生命を吹き込むことができる人、そうしてできたものを使ってくれる人がいないと、そうしたつながりの中ではじめてこの木が伐られたことの意味が出てくる。

しばらく、こうして庭に置いてもすぐに腐るものでもないので、しばらく買ってくれる人、つかってくれる人をさがすことにしよう。

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