持続可能な森林管理とはどういうものか。
森林生態系は、太陽エネルギーを活用した生命活動による自律的な物質循環として成り立っている。
森林生態系の外側で生活している人類が、森林生態系サービスを活用するということは、この循環に介入し撹乱する行為である。特に林産物の利用は物質循環に森林生態系外へのバイパスを造ることであり、物質循環を断ち切り破壊する可能性を孕んでいることを常に意識しなければならない。
森林生態系の持続性を支えているのは土壌と生物の多様性である、これらを損なわないかたちでの森林活用を構想しなければならない。
現在の我々が必要とする森林生態系サービスは、地質時代的な長い時間のうえで形成された生物の多様性と、森林生態系の営みによって形成されてきた森林土壌の生産力によって得られた蓄積を活用しているのであって、この蓄積と生産力、多様性を、現代の世代で使い尽し破壊すること無く、次世代にで継承しながら活用することが不可欠である。
持続的な森林管理を放棄した森林生態系にかかわらないかたちでの人間の活動は、生態系の内部でしか生存できない生物としての人間の存在を否定することになり、そもそも持続可能とは言えない。
人間の活動を維持するためでには、単に生態系に依存するだけでなく、現に人間の求める社会的経済的な便益が提供されなければならない。そうでなければ人間の森林における活動としての持続可能な森林管理の実現は不可能である。
問題は現在の経済的採算性だけでなく、将来世代にわたる採算性を考慮し、必要な投資とその回収の方針を策定することである。
このためには、社会的な同意が不可欠であり、科学的な根拠に基づく森林生態系に対する理解と、人間の経済活動の枠組みを調和させることが求められる。
現在の日本においては適切に管理されていない森林が多く、林産物の活用も停滞している。
生物の多様性を維持し土壌を破壊しないような、効率的な生産システムの開発と、林産物の多様な活用による収益向上を計画し、具体的な課題を抽出し行動指針を策定する要がある。
ここでは、森林生態系についての科学的理解のための調査研究とその成果の普及、林地の集約化や人材育成など森林経営体制の再構築、森林の内外における路網整備や物流拠点など生産基盤の整備、森林における生産技術や製品加工技術の高度化、林産物の多様な活用のための市場環境の構築がなどが課題となる。
これら課題を実現するためには、政策の立案と法や組織などの運用システム、市場メカニズムを活用した普及、自然環境と調和した人々の暮らし方における意識改革などが求められる。
持続可能な森林管理は、こうした課題についての包括的な理解とそれに基づく様々な改革を推進することによって、はじめて実現可能となる。