植えた人の思いに応える †災害復旧工事のために、私の集落で道沿いの杉をまとめて20本ほど伐ることになった。
普通ならば、この木を伐って搬出し市場で売ったとしても、残念ながら伐り出しの費用も出ない状況だ。道端だが崖のような急斜面で、しかも40年生程度の杉。あまりに狭い面積なので間伐の補助の対象にもならない。
去年の台風で、この杉の山は下側三分の1分ほどが崩落してしまっている。どうせ残しておいても、いつかは崩落してしまうかもしれない。そんな状況の山だ。
たまたま災害復旧工事のために伐ることになったので、一応立木補償金が出る。ただし一般の工事よりは安いらしい。このわずかな補償金ではふつうに伐採業者にたのんだ場合、立木の販売代金を加えてもさらに費用がかかってしまう。そこで同じ集落の仲間ということもあって、私にまわってきた。
この際、立木そのものをあきらめて全部伐り捨ててしまったほうが、かえって安くつく。そのくらい搬出が難しく、しかも材の価格は安そうなのだ。
しかし、せっかくここまで育ってきた木を捨ててしまうのはもったいないという持ち主の気持ちに応え、危険だしかなり手間はとるけれど、出すことにした。ギリギリの予算で、なんとか販売価値のありそうなものだけを運び出す。伐出費用は立木補償金でまかない、トラック代や市場手数料を引いた売り上げをそっくり持ち主に渡すことに。
思ったより条件は厳しかった。この場所は特に道が狭くなっている部分で普通車のすれ違いもできないほどなのだ。材を引き上げるための重機がおける場所がごく限られてしまう。通行止めにできればまだ楽なのだが、ここは県道、しかも災害復旧工事の関連で大型トラックが盛んに通る。
そこに、地滑りの計測機器の配線がある。この線をとりはずしてもらうことになっていたのだが、まだ残っていた。次の現場の予定が詰まっているので、時期をずらしたくない。仕方なく役場に相談してこちらで移動することに、と言っても線をはずせないので、なんとか安全なかたちにずらしただけ。
まず最初に、用材として売れそうもない木は全部伐り捨てることにした。崖の下に向けて倒せばそのまま落ちていく。崖下は工事の範囲ではないので、そのまま放置。去年崩落してしまった木と一緒に、谷底に捨てておくことにしたのだ。そのまま木を放置しても、二次災害の危険は無い。かえって短く切り刻んだりすれば、後の大雨で流れ出す危険もあるというものだ。10年もすれば自然に土に還る。
のこりは、なんとか運び出すために、矢を使って道に平行に倒す。風にあおられて思うように倒れない。芯が腐っている木もあった。材質はかなり悪い。
伐り捨ても含めて、伐倒時間は二人で4時間ほど。あとはどうやって崖っぷちの木を引き出すか。いろいろな難条件に加えて、我々のバックホウでは力も不十分。結局危険を承知で、その場で枝払いをして約8mくらいに造材、ウインチで引き上げることに。全木で引き出すには角度が悪く、斜面途中で止めることはできないほどの傾斜。また道まであげてきたときに長いままではとり回す場所が無いのだ。(一本だけやってみたが大変だった)。
全部捨てた方がよっぽど楽で、費用もかからなかったかもしれないが、とにかく出す。それが山師の仕事だと思う。この山の場合は、なんとか木を活かしたいという持ち主の気持ちに応えるためにこんなことをしているとも言えるだろう。
結果を知って、持ち主さんはがっかりするに違いない。あるていど木の価値を判断できる目から見れば、売り上げ予想はそんなに狂わない。仲間内で一晩飲んだら終わりという程度の金額だと思う。
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