生物多様性の保全と構造の豊かな森林を目指した生産林施業のありかたについて。

生態系は多様な生物の相互連関により、自律的かつ持続的に長い年月にわたって維持発展してきた。

特に生物の多様性は生態系が外部からの撹乱や環境の変化に対応するために備えてきた重要な性質である。特定の種は特定の生存環境に依存するので、一時的に生活圏を拡大しても、環境の変化に対応出来ず絶滅することは地質時代史的に証明されている。

森林生態系は生態系のなかでも特に多様な種で構成され複雑な構造を持っている。基岩、菌類、土壌微生物、土壌内小動物がつくる土壌を基盤とし、高木性の樹木に至る多様な生物が、時間的空間的な構造の中で、炭素をはじめとする巨大な物質の蓄積を実現し、酸素や水を安定的に供給することで、地上生態系の重要な部分を構成している。

このような安定した物質循環の仕組みを活用して営まれるのが、木材生産を中心とした多様な森林生態系サービスを活用する林業である。

生産林においても、この生態系の仕組みを最大限に活用することが、もっとも効率的で持続可能な方法であることを熟知するべきである。

施業の実施にあたっては、森林生態系の仕組み、とくに構造的な観点からの森林の発達段階を理解し、撹乱に対する再生の仕組みを活用することに配慮しなければならない。できるだけ安定した状態の、高い蓄積と複雑な構造を維持しながら、生産活動を行うことが望ましい。

森林の発達段階としては、成熟段階から老齢段階にかかる状態を維持しながら活用することになる。
樹木が寿命を迎えて倒れる前、人間の利用目的に合う状態のうちに、土壌を保全しながら、樹木の世代更新と多様な構造の維持を意識した伐出方法により収穫する技術が確立すれば、森林からは収益だけを得て、更新や保育のコストはかからないという理想的な状態での生産活動が可能となる。

現在の森林の状態が成熟段階に至らず、構造的に未発達で生物多様性にも乏しい場合でも、その林分の環境に適合し利用目的に合わせた目標林型を設定し、自然淘汰を先回りした適切な伐採利用を繰り返すことで、利用しやすい性質で、生物多様性に富み、多様な構造を備えた森林へ誘導することが可能である。一般的に目標林型は長伐期の択伐型になることが理想だが、そこに至るまでのあらゆる段階で、小径木や多様な林産物が生産されることになる。

こうした多様な生産物を活用することも、持続的森林管理を実現するために不可欠である。

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