現場復帰

半月ぶり「きこり」に復帰した。

子どもが熱を出して仕事を休んだことにはじまり、その後自分がインフルエンザ~肺炎という生まれて初めての事態に陥ってしまったため。

午前中は別荘地のアカマツの伐採。毎年この季節になると決まって穂高町の別荘地での伐採の仕事がやってくる。

家主は「こんなに大きくなるとは思わなかった」というのだが、樹齢40~50年のアカマツは樹高20m~25m、胸高直径は20cm~30cm。つまりヒョロヒョロ状態なのだ。

気がついたときに手の着けようがない状態になってしまって、風や雪でバタバタと倒れるようになってから、あわてて伐採の必要に気がつく。本当は間伐をしてしっかりした木にしておけば良かったのだが、枝が枯れ上がってしまい(ということは根の張りも弱いということだ)成長の回復はほとんど見込めない。残してもいずれは倒れる危険な状態になっていることがほとんど。

以前はそれでも間伐の方が多かったのだが、最近は敷地内のアカマツは全部伐るということが多くなってきた。でも、本当なら隣の敷地も伐らなければ意味はない。一カ所伐採して穴があけば、まわりの木はみんなそこをめがけて傾いてくるのだ。

建物や電線、道路などがある別荘地での伐採は簡単ではない。普通造園業者に頼めば確実にクレーンを持ってくる、だが私たちは山の伐採屋なので、クレーンを使う仕事は原則としてやらないことに決めている。つまり、山と同じように、間伐でも皆伐でも普通に伐倒することができる場合にだけ、この手の仕事をすることにしているのだ。(稼ぎにはなるが本質的に楽しい仕事ではないので)

つまり、腕の見せ所でもある。

病みあがりの身体にとって、伐採という仕事はかなりきつい。平地の仕事で、しかも単価がいいのでそんなに急がなくてもいい現場なのだが、身体の芯に力が入らない状態での伐採は大変だった。なによりも、ここ一番の集中力が出ない。結果としてミスが出やすくなる。
もちろん最悪の失敗はしないように、安全マージンは多めにとってあるのだが、ヒヤッとする場面もあった。普段の半分のペースでしか身体が動かない。

午後は、この現場を離れて、ケヤキを一本伐りに行く。この木は去年の春に枝だけ下ろしたあとそのままにしておいた木だ。どうしても伐って欲しいというので、ちょっと気が重いが伐ることに。本当ならあと50年くらい置いてから伐った方が良いのだが、家が日陰になるし、隣の畑にも迷惑がかかってるからという事で伐ることになった。

伐採費用を木の売値で出せないかという相談なのだが、正直言って厳しい。
根元の直径70cm、でも枝下が3mしかない。充分に大きな木なので、伐るのも出すのも楽では無いんだが、売るとなると安いのだ。

段丘の崖に立つ木。足場は良くない。できるだけ利用できる長さを稼ぐために、地面ギリギリでの伐採になる。銘木級のものなら土を掘って伐ることもあるというケヤキだが、この木はそこまではやらない。でも、受け口斜め切りは、斜面下から上へ切る。わずかでも長さを稼ぎたいという欲、というか職人のこだわり。

ケヤキの受け口を下側から切るというのは、なかなかの重労働。チェーンソーの重量とエンジンのパワーを全て身体で受け止めながら切り上げるのだから。しかもガイドバーの長さが45cmしかないので、70cmの木を伐るのはさらにつらい。

受けを半分くらい切ったところで、酸欠状態になってきた。一昨日検査したら血中酸素が正常の98%だった。96%以上あれば良いと言われたが、この仕事では2%減が効いてきた。燃料を補給し目立てをして休憩を入れる。正直ちょっとつらくなってきたが、自分が手がけた木だ、最後まで自分がやらなければならない。木の命をいだだく伐採とはそういう仕事だ。

追い口を切って最後にクサビを打ち込む。チルホールで引いても枝を落として重心が低くなっている木は簡単には倒れようとしないのだ。満身の力を入れてクサビを打つこと十数回、やっとのことでケヤキは崩れるように倒れた。

伐ってみれば思った通り、たいした木ではなかった。樹齢60年。やはりあと50年はおいておくべきだったのか。

仕事を終えて驚いたのは、異常なほどの汗。真夏の炎天下の作業並みに上着から汗が滴る。

おかげで身体中から悪いものが一気で出たような爽快な気分、でもあきらかに酸欠的な頭痛と筋肉のだるさ。脳だけがまだ興奮している状態。

6時ギリギリに子どもを迎えに行き帰宅して脱力。夕飯をつくれるようになるまで1時間、マジで動けなかった。

午後10時をすぎた今さすがに酸欠症状は治ったが、まだ脳の興奮が醒めず眠くならない。

復帰初日にしてはちょっとハードだったかもしれない。でも爽快な気分。

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